実践!哲学教育ノート

小学校での哲学対話:「普通」ってなんだろう?多様な考えに触れる授業実践例

Tags: 哲学対話, 多様性教育, 道徳科, 総合的な学習の時間, 授業実践, 考える力, 対話力

はじめに:なぜ小学校で「普通」を問い直すのか

小学校の子どもたちは、集団生活の中で「みんなと同じであること」や「普通であること」を強く意識する時期があります。しかし、社会が多様化する中で、一人ひとりが異なる価値観や考え方を持っていること、そしてその違いを認め合うことの重要性は増しています。「普通ってなんだろう?」という問いは、一見素朴ですが、他者理解や多様性の尊重、そして自分自身の価値観について深く考えるきっかけを与えてくれます。

本記事では、小学校において「普通」というテーマで哲学対話を取り入れた授業実践について、具体的な進め方やポイント、想定される子どもの反応などを紹介します。この実践を通して、子どもたちが固定観念にとらわれず、多様な視点から物事を捉え、他者との対話を通じて自身の考えを深める力を育むことを目指します。

実践事例紹介:「『普通』ってなんだろう?」哲学対話の時間

授業のねらい

授業の具体的な進め方

以下は、一つの授業モデルです。子どもの様子や状況に合わせて適宜変更してください。

ステップ1:導入(10分)

  1. テーマ提示: 「今日は『普通』という言葉についてみんなで考えてみたいと思います。」とテーマを提示します。
  2. 言葉の確認: 「『普通』って、どんなときに使う言葉かな?」と問いかけ、子どもたちから言葉や使い方を集めます。(例:「普通はこうするよね」「普通ならできるよ」「普通の大きさ」など)
  3. 問いの提示: 集まった言葉や使い方から、「じゃあ、『普通』って一体なんだろう?」「何をもって『普通』と言うのだろう?」という問いを立て、ホワイトボードなどに書きます。

ステップ2:個人思考の時間(15分)

  1. 問いへの応答: 提示された問いについて、一人で考える時間を設けます。
  2. 思考シート記入: 考える手がかりとして、「あなたが『普通』だと思うことは何ですか?」「『普通』と違うことは、どういうことだと思いますか?」「『普通』って、あると良いのかな、無い方が良いのかな?」といった問いが書かれた思考シート(後述の準備物を参照)を配布し、自分の考えを書き出してもらいます。絵や図で表現しても構いません。
  3. 教師の巡回: 子どもたちが考えを深められるように、必要に応じて個別に簡単な問いかけを行います。(例:「どうしてそう思ったの?」「それは誰にとっての普通かな?」など)

ステップ3:グループ対話(20分)

  1. グループ編成: 4〜6人程度のグループを作ります。
  2. 考えの共有と対話: 個人で考えたことやシートに書いたことをグループ内で共有します。一人ひとりが自分の考えを話す時間を確保し、その後、互いの考えについて問いを立てたり、感想を述べたりする対話を行います。
  3. 対話の促進: 教師はグループを巡回し、対話が止まっているグループには、「○○さんの考えを聞いてどう思った?」「△△さんが言った『普通』と、□□さんが言った『普通』は同じかな、違うかな?」など、対話を促す問いかけを行います。特定の意見に偏らないように、「他の考えもあるかな?」と問いかけることも大切です。

ステップ4:全体共有と対話(20分)

  1. グループ発表: 各グループで出た多様な意見や、特に興味深かった考え、話し合った中で生まれた新たな問いなどを全体で共有します。代表者が発表したり、ホワイトボードに書いたりする方法が考えられます。
  2. 全体での対話: 全体で共有された多様な考えや問いについて、さらに深く対話します。「この意見についてどう思いますか?」「Aさんの考えとBさんの考えは、どこが同じで、どこが違うのだろう?」「結局、『普通』って、一つだけではないのかな?」など、教師が問いを投げかけながら、全員で考えを深めていきます。
  3. 違いを認める: 「みんな本当に色々な考えを持っているね。これが普通だと思っている人もいれば、あれが普通だと思っている人もいる。あるいは、『普通』なんてない、と思う人もいる。どれが正解、間違いということはないんだね。」と、多様な考え方があることを認め、違いがあるからこそ学びがあることを伝えます。

ステップ5:まとめ(5分)

  1. 振り返り: 今日の対話を通して気づいたこと、考えが変わったこと、難しかったことなどを簡単に振り返ります。(例:「前はこれが普通だと思っていたけど、他の人の話を聞いて色々な普通があるって分かった」「『普通』って言葉を使うときに、誰にとっての普通か考えようと思った」など)
  2. 日常への接続: 「今日の対話であったように、私たちの周りには色々な『普通』があるかもしれません。例えば、クラスの中にも、家の中でも、地域の中でも。みんなが自分とは違う考えを持っていることを心に留めておくと、色々なことが見えてくるかもしれませんね。」と、学びを日常生活につなげる言葉を伝えます。

準備物

対象学年と発達段階への配慮

実践のポイント、注意点、よくある課題とその対処法

よくある課題と対処法

想定される子どもの反応や対話の例

成功・失敗事例とそこから学べる示唆

多忙な現場でも取り入れやすい工夫やヒント

まとめ

「普通ってなんだろう?」という問いを探求する哲学対話は、子どもたちが日常的に使っている言葉や身近な事柄を通して、多様な価値観の存在に気づき、固定観念を問い直し、そして互いの考えを尊重しながら対話する力を育む有効な方法です。すぐに答えが見つからない問いについて、友達や仲間と共に考えを巡らせる経験は、子どもたちの思考力やコミュニケーション能力、そして他者への共感力を大きく伸ばす可能性があります。

多忙な小学校現場では、このような対話の時間を十分に確保することが難しいかもしれません。しかし、既存の教科や活動の一部として短い時間でも取り入れること、そして何より「どんな考えも受け止める」という安全な対話の場を意識して作ることによって、子どもたちの「考えるって面白いな」「色々な考え方があるんだな」という気づきにつながるはずです。ぜひ、先生方のクラスでも「普通」を問い直す対話の時間を取り入れてみてください。