実践!哲学教育ノート

「かっこいい」ってどういうこと?:多様な価値観に気づく哲学対話

Tags: 哲学対話, 価値観, 多様性, 思考力, 小学校教育

はじめに:「かっこいい」という問いかけから広がる対話の世界

子どもたちの日常会話に頻繁に登場する「かっこいい」という言葉。この言葉は、単に見た目の良さを指すだけでなく、行動、考え方、生き方など、様々な価値判断を含んでいます。だからこそ、「かっこいい」という身近なテーマは、子どもたちが自分自身の価値観や他者の価値観について考え、対話する絶好の機会となります。

本記事では、「かっこいい」という問いを入り口に、子どもたちが多様な価値観に気づき、自分の考えを深める哲学対話の実践方法をご紹介します。小学校教諭の皆様が、日々の授業に取り入れやすい具体的なステップやヒントを提供します。

なぜ「かっこいい」について哲学対話するのか

子どもたちは、メディア、友達、家族など、様々な情報源から「かっこいい」と感じるものや考え方を吸収しています。しかし、その「かっこよさ」がなぜそう感じられるのか、自分にとっての「かっこよさ」とは何なのかを深く考える機会は少ないかもしれません。

「かっこいい」について対話することは、以下のような力を育むことにつながります。

実践!「かっこいい」についての哲学対話

ここでは、小学校での授業を想定した哲学対話の具体的な進め方と活動例をご紹介します。対象は中学年~高学年が適していますが、問いや導入を工夫すれば低学年でも実施可能です。

1. 導入:問いを立てる(10分)

2. 共有:自分の中の「かっこいい」を出す(15分)

3. 対話:なぜ?どういうこと?を深める(20分~30分)

4. まとめ:対話を通して気づいたこと(5分~10分)

実践のためのポイントと注意点

想定される子どもの反応と対話例

成功事例とそこから学ぶ示唆

あるクラスでは、「かっこいい」というテーマで対話した際に、 initially は戦隊ヒーローやゲームキャラクターの名前が多く挙がりました。しかし、「どういうところがかっこいいの?」と理由を深掘りしていくと、「弱点を克服するために努力するところ」「友達を大切にするところ」「自分の間違いを認められるところ」といった、内面や行動に関する意見が出始めました。

特に印象的だったのは、「自分は絵を描くのが得意じゃないけど、諦めずに毎日練習してるんだ。そういう自分も、ちょっとはかっこいいかなって思えた。」という発言が出たことです。

この事例から学べるのは、導入の段階では具体的なものから入っても、教師の適切な問いかけによって、抽象的な概念や内面へと議論を深めることができるということです。また、哲学対話が、子どもたちが自分自身のポジティブな側面に気づき、自己肯定感を高めるきっかけにもなり得るということです。

失敗事例とそこから学ぶ示唆

別のクラスでは、「かっこいい芸能人」の話で盛り上がりすぎてしまい、外見や人気といった表面的な話から深まらなかったことがありました。

この原因としては、問いかけが具体例に寄りすぎてしまい、抽象的な「かっこよさ」の定義や理由に焦点を当てる問いかけが少なかったこと、また、教師が特定の意見に引きずられすぎた可能性が考えられます。

失敗から学ぶことは、導入で具体的な例を挙げてもらうのは良いが、対話の中心はあくまで「なぜそう思うのか」「それはどういうことなのか」といった理由や定義を深める問いに置くべきだということです。また、対話の方向性を調整するために、教師がテーマに立ち返る問いを意識的に挟むことの重要性を示唆しています。

多忙な現場でも取り入れやすい工夫

「哲学対話の時間を十分に取るのは難しい」と感じる先生もいらっしゃるかもしれません。しかし、「かっこいい」をテーマにした対話は、工夫次第で短い時間でも、あるいは他の学習と組み合わせながら実施できます。

おわりに

「かっこいい」という言葉は、子どもたちの身近にあり、彼らの価値観が色濃く表れるものです。この言葉を哲学対話のレンズを通して見つめ直すことで、子どもたちは自分の中に眠る多様な価値観に気づき、他者の考えを尊重し、そして自分自身の頭で深く考える力を育んでいきます。

完璧な答えを出すことではなく、問いを通じて共に考えるプロセスそのものを楽しむことが、哲学対話の醍醐味です。ぜひ、日常の中に潜む哲学的な問いを見つけ、子どもたちとの対話を楽しんでみてください。